経口血糖降下剤でコントロールがつかない時、糖尿病の合併症が進行する時はインスリン療法への切り替えを検討しなくてはなりません。どの患者さんもわたしがインスリンの話を切り出すと、当然のごとく拒否反応を示されます。「注射は怖いよ。」、「インスリンを打つのは最後の手段で、もうおしまいだ。」などの言葉が聞かれます。必要な治療法なのに患者さんの納得が得られないまま時間が過ぎていくことが少なくありません。

しかし考えてみるとインスリンほど良い治療法はないと言えます。どの内服薬も何らかの副作用があります。また自分の膵臓からインスリンを出す力がなくなってきた状態では、薬で刺激しても効果は出ません。一方、インスリン療法は元々、人間の体には必要なものを補う「ホルモン補充療法」なのです。注射するのは面倒くさいかもしれませんが、確実に血糖が下がります。低血糖以外の副作用はないと言っても良いくらいです。就学前の子供が自分で注射するケースもあります。また80歳過ぎてから打ち始める患者さんもいらっしゃいます。ペン型の注入器は簡単で、針も細く、痛みは殆どありません。駅で切符を買うことや携帯電話の操作に比べたら、自己注射は簡単な作業と思います。

一般的な知識としてインスリンが血糖を下げることは良く知られていますが、他にもエネルギーを産生する、脂肪や蛋白を合成するなどの作用があります。高血糖が持続し体重が減って疲れ切った患者さんがインスリンを打ち始めると、みるみる元気になることもあります。

先月、私のクリニックでインスリンを開始した78歳の男性は「こんなに簡単とは思わなかった。」、「明らかに元気が出てきた。」、「何故、もっと早く、強く薦めてくれなかった。」とおっしゃいました。ずいぶん前から説得してきたのに、私の薦め方が足りなかったのかもしれません。殆どのケースで患者さんは同じような感想を述べられます。やってみると簡単で優れた治療法であることが実感できるのです。私の長い経験の中で、インスリンを始めたけどやっぱり打てないと言われたのは一例だけです。その患者さんは若い女性で精神的に針恐怖症でした。そうするとインスリンが打てないとか、どうしても出来ないというケースは皆無とも言えます。

世の中にはインスリンを打ちながら頑張っている人も沢山います。中でも阪神タイガースの岩田稔投手、糖尿病専門医として大活躍中、福岡の南昌江先生は有名です。1999年度ミスアメリカ、ニコール ジョンソンさんも来日し
て多くの患者さんに勇気を与えてくれました。

それでも世の中の認識は不十分で、未だにインスリンのイメージは悪いようです。インスリンのことを悪く言うのは、インスリンを打ちながら社会で頑張っている人たちに失礼だなあと思います。またわれわれの啓蒙活動や努力が足りなくて申し訳ない気持ちにもなります。皆さんにインスリンの良さをもっと知って欲しいと願ってやみません。

ともながクリニック糖尿病生活習慣病センター
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院長・医学博士 朝長 修
・東京女子医科大学糖尿病センター講師 ・日本内科学会認定医 ・日本内科学会専門医 ・糖尿病学会専門医 ・糖尿病学会研修指導医 ・透析医学会専門医 ・透析医学会指導医